遺伝する犯罪性 〜双子実験〜 (下)

1. 養子縁組実験:Adoption Studies

先の記事で紹介した従来型の双子実験にはいくつかの欠点があった。従来の双子実験は、同じ環境で育った、同じ遺伝子を共有する双子が同じように犯罪性を継承するということを検証するものであった。しかし双子が育てられた環境が同じだということを仮定した設計が批判の対象になったのは言うまでもない。そうはいっても、双子の特性によってきっぱりと同じだけ共有される遺伝子とは異なり、双子がおかれる環境を調整するのは至難の技であるし、また研究者が意図的にそれを行えば倫理的な問題もおおきい。それならば、最初から異なる環境を想定すれば良い。また、双子が引き取られたそれぞれの里親が犯罪歴を持っている場合、その影響もモデル化できる。同じ遺伝子を共有した双子が全く異なる環境で育てられた場合、それでも犯罪性は一致するのか?そのような比較を行う実験は、養子縁組実験(Adoption Studies)と呼ばれる。

養子縁組実験のイメージ

Fig. 1: 養子縁組実験のイメージ

養子縁組実験は、その名の通り養子縁組の制度を利用して別々の環境に引き取られた双子が、その後どのような犯罪との関わりを示すのかを比較・分析する手法である。従来の双子実験で報告されてきた犯罪性の遺伝が本当に起こっているならば、たとえ別の環境で育てられたとしても、一卵性双子の犯罪性は二卵性双子のそれよりも強く一致することが予想される

実験の概要は以下の通りだ:
   前提1:遺伝子の共有率はペアごとに一定だが、それぞれ異なる家庭で育てられる
   前提2:一卵性双子の方が二卵性双子よりも強く犯罪性を共有する
   仮説 :二卵性双子よりも一卵性双子の方が犯罪性の一致率が高い
       (前回と同様ならば、45%ほどの一致率になるはず・・・)

数々の実験の結果、この養子縁組実験でも先ほどとおおむね同様の結果が得られることとなった。多くの報告において、50%から犯罪性の遺伝率の推定が大きくずれることはない。メドニック(1984)らが行った実験では、次のような表が発表された:

双子実験の結果

Fig. 2: 親の犯罪性と子の犯罪性 (Mednick, 1984)

「犯罪傾向のある遺伝子と環境(里親の犯罪歴)が犯罪性を高める要素である」。なんと簡潔でわかりやすい説明だろうか。しかし、まだ個別の研究だけでは心もとない。双子実験は蓄積されたデータをもとに次のステージに進むこととなった。

2. メタ分析:Meta-Analysis

先の記事で紹介したとおり、20世紀に始まった双子実験は世界各国で実証が試みられ、およそ犯罪性の遺伝率は50%前後である可能性が高いことを示してきた。しかし、いくら数多くの双子実験が行われたとはいえ、使われたデータや統計の手法がまちまちでは全体的な結論が出しにくい。結論を下すためには各研究者が個々の実験の報告を参照するべきであろうが、なにぶん双子実験の歴史が長いため、それぞれの論文を読むだけでも一仕事である。過去のデータが膨大であれば、参照する人の知識や技量、主観などが評価を決定してしまうことも多い。このような状況を解決する手法は、メタ分析と呼ばれる。

メタ分析とは、過去の実験や観察などで得られた定量的(数字の)データをこれまでの様々な論文から集めてきて、それらのデータを一つのフォーマットに統一し、改めて精度の高い分析にかけるという試みのことである。すなわち、過去に行われた実験の被験者すべてを対象にして、実験の分析をやり直すという壮大な研究である。ちなみにこの手法は犯罪学以外にも幅広く使われる研究の形式である。果たしてその結果は・・・

3. 結論:犯罪性は遺伝するのか?

人格の形成、ひいては罪を犯す人間の行動に関しては、長らく「生まれか、育ちか」(Nature vs Nurture)の論争が繰り広げられてきた。ある人の問題行動は、生まれつきの性分なのか、はたまた教育の問題なのか。この手の議論で一番つまらない答えは、両方とも同じくらい重要だ、というものだろう。しかし、犯罪性の遺伝率はどのくらいか、という問いに対する答えは、今のところまさにそのような結果となったと言わざるをえない。

主なメタ分析が算出した犯罪性の遺伝率は次のとおりである。メイソンおよびフリック(1994)は50%、マイルズおよびカレイ(1997)も50%、ファーガソン(2010)は56%、法的に定義される犯罪に限らず反社会的行為のメタ分析では、リーおよびウォルドマン(2002)は41%、ファーガソン(2010) は56%。ときおり60%にさしかかる遺伝率が報告されることもあるが(Burt, 2009)、ざっと見渡しても、これまでの双子実験と大差ない結果である。ここでも、遺伝性の基準は50%あたりを細かく推移している

またこの結論は犯罪学に限らず遺伝学からの援護射撃も受けている。過去50年間の論文から14,558,903人分ものデータをかき集めて行われたポルダーマンら(2015)によるメタ分析がはじき出した遺伝率の推定値は、あらゆる形質に関して平均で49%。見事な中庸となった。

結論として、犯罪をめぐる「生まれか、育ちか」論争は今のところ見事な五分五分の状態であると言える。ただ、あくまでこの結果は「今の所」という条件つきだ。一部の研究者らは双子実験に使われる統計手法の問題を指摘しており、また複雑な外的要因をより厳密に測るための手法もそこここで開発されようとしている。しかしいずれにせよ、今後現在のデータが反証され、犯罪性の遺伝をめぐる議論が発展するのだとすれば、それはもうすこし先になりそうだ。

この記事は「心理犯罪学」シリーズの一部です。今後の記事をお届けするためにも、右側のサイドバーおよびページ最下部のアイコンからSNSをフォローしてくだされば幸いです

  • Burt, S. A. (2009). Are there meaningful etiological differences within antisocial behavior? Results of a meta-analysis. Clinical psychology review, 29(2), 163-178.
  • Ferguson, C. J. (2010). Genetic contributions to antisocial personality and behavior: A meta-analytic review from an evolutionary perspective. The Journal of social psychology, 150(2), 160-180.
  • Mason, D. A., & Frick, P. J. (1994). The heritability of antisocial behavior: A meta-analysis of twin and adoption studies. Journal of Psychopathology and Behavioral Assessment, 16(4), 301-323.
  • Mednick, S. A., Gabrielli, W. F., & Hutchings, B. (1984). Genetic influences in criminal convictions: Evidence from an adoption cohort. Science224(4651), 891-894.

  • Miles, D. R., & Carey, G. (1997). Genetic and environmental architecture on human aggression. Journal of personality and social psychology, 72(1), 207.
  • Polderman, T. J., Benyamin, B., De Leeuw, C. A., Sullivan, P. F., Van Bochoven, A., Visscher, P. M., & Posthuma, D. (2015). Meta-analysis of the heritability of human traits based on fifty years of twin studies. Nature genetics, 47(7), 702.
  • Rhee, S. H., & Waldman, I. D. (2002). Genetic and environmental influences on antisocial behavior: a meta-analysis of twin and adoption studies. Psychological bulletin, 128(3), 490.
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この記事の投稿者情報

竹本智志
竹本 智志

専門分野:犯罪科学(警察学)・近代思想
ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)、ジル・ダンド研究所の保安・犯罪科学部に学ぶ。
紫洲書院の出版部を担当し、運営実務を統括する。

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